映画づくりに参加するスタッフとクルーがそれぞれ自己紹介。
2時間にわたるオリエンテーションを通し、プロジェクトの概要と映画制作の流れを掴む。
12月16日、午後1時過ぎ。JR双葉駅に集合した参加者一行は、ひと足先に現地入りした本部スタッフに出迎えられ、オリエンテーションの会場となる浅野撚糸の施設「双葉スーパーゼロミル」へ。糸やタオル製品を双葉町から国内外に発信していこうと2023年にオープンした同施設は、復興産業拠点として雇用や人の流れを創出、新たな観光スポットとしても注目される。
浅野撚糸のご厚意により広めの会議室が用意され、スタッフと参加者が初顔合わせ。北は北海道から南は九州と、日本全国から集まったメンバーはほぼ初対面、しかも初めて双葉町を訪れる人がほとんどだった。
そこで、三谷一夫統括が本プロジェクトの趣旨を説明すると同時に、2011年に起きた東日本大震災・原子力災害の影響で当時7000人だった住民が全員退避、人口ゼロだったプロジェクト立ち上げ当初の双葉町の様子について語った。
双葉町の人々が恐れるのは震災の記憶が薄れること。幼い子どもたちは当然、生まれる前の震災のことは知らない。今後、そんな若い人たちが増えていくことからも、本プロジェクトに参加し、福島浜通り・双葉町を訪れることによってその存在を知ってもらいたいというのが、数少ない町民の願いでもある。
初日はまずはコミュニケーションをとることからと、スタッフの挨拶の後、班分けされたAチーム、Bチームごとに自己紹介。これまでの参加者とは異なり、その多くは少なからず映画の現場を経験しているという。ただ、制作側にまわったことがなく、概ねゼロからのスタート。ロケハン、脚本づくり、撮影、編集、上映会と、映画づくりの全工程を5日間で行うことは無謀なようにも思える。しかも今回は安全管理体制を強化しようと、1日の作業時間を抑えるなど自主規制を進める意識改革を実施、無理のないスケジュールに挑戦する。加えて、住民にも映画づくりに参加してもらうべくワークショップを事前に開催するなど、新しい試みが行われた。

映画づくりを学ぶとともに、まずは双葉町のことを知ってほしいと2日目の午前中にはこの町の歴史を知る「東日本大震災・原子力災害伝承館」見学と、魅力あるまちづくりのため2019年に設立された一般社団法人ふたばプロジェクトのスタッフによる町ガイドのプログラムが用意された。
映画づくり――特に脚本づくりとロケハンの一助になると、真剣に説明を受ける参加者たちの姿が印象的だった。実際、上映会では「美しい風景が撮れた」「また双葉町に戻ってきたい」と感謝する。

震災の教訓を次世代に継承する、県内随一のアーカイブ拠点施設「東日本大震災・原子力災害伝承館」を見学。改めて双葉町の歴史を知る

ふたばプロジェクトのツアーは2チームに分かれ、被災した建物から復興に向けて作られた新たな名所などをめぐる
- 旧駅舎憩いのスペース
- 双葉駅旧駅舎は来訪者の憩いと交流の場として活用。双葉町を紹介するパネルなども展示する。
- 壁画アート
- 各地で壁画アート制作事業を実施するOVER ALLsが駅周辺の空き店舗などに壁画を描き話題に。
- 相馬妙見宮初發神社
- 大震災の影響で傾いた神殿などが修復された。由緒ある神社は今も昔も町民の心の拠り所。
- 旧三宮堂田中医院診療所
- 大正時代位に建造された木造洋館風医院建築。2022年に国登録有形文化財に登録された。
- 双葉町産業交流センター
- 復興の中枢を担う交流センター内には土産物店やフードコート、コンビニが入っている。
- 東日本大震災・原子力災害伝承館
- 東日本大震災と原子力災害の貴重な資料が展示。災害を経験した語り部による講和も実施される。
居住人口ゼロ状態が10年以上続いた双葉町には、ほかの町には見られない風情が漂う。
一方で、復興・再建が進む中、今しか撮れない双葉を舞台にした脚本づくりにも力が入る。
今回、参加者たちが挑戦する作品のテーマは「プレゼント」。さらに、事前にワークショップに参加してくれた子どもたちの出演シーンを入れることがお題として出された。しかも子どもたちの撮影は2日目の夕方一度きり。それまでに大まかなストーリーを考えなければならない。
1日目のオリエンテーション後、各チームとも企画会議を行うと同時に、シナハン(シナリオハンティング=脚本を書く前に、舞台となる場所やテーマについて下見・調査・取材を行う作業)を行い、まずは脚本の下準備を進めていった。
脚本づくりの参考になったのは、2日目のふたばプロジェクトによるまちめぐりツアー。駅周辺から神社、壁画が点在する街中を見て回ることで、つくりたい映画のイメージが膨らんでいく。舞台となる撮影場所(ロケ地)は物語を組み立てる鍵にもなるだけに、参加者も下見・選定に余念がない。
本格的な脚本づくりは2日目の午後から。「テーマの『プレゼント』から派生する言葉やイメージを付箋に書き出しホワイトボートに貼っていった」「双葉町をどう素敵に生かせるか、みんなの体験談をそれぞれ披露」するなど、意見を出し合った。
「みんなそれぞれやりたいことはあるが、一人でもこれはやりたくないとの意見が出たら絶対無視したくないと、とことん話し合った」ことから、Bチームの脚本づくりにはかなりの時間を要した。が、決して妥協はしなかったと振り返る。
一方、Aチームは「それぞれの思いを大切にしながら、いろんな制限やルールがあるなか、どう取捨選択していくかの作業を凝縮してやりきった」満足感があったという。完成作品の尺は10分と決まっているだけに、かなりの絞り込みをしていかなければならない。
Bチームは先に撮影した子どもたちとのシーンを核にした展開に、Aチームは細かな台詞は決めず、現場で作り上げていく形で進行。実質3日間という限られた時間を有効に活用しようと、撮影準備を進めた。
シナハン、脚本づくり、ロケハンが終わり、映画づくりのメインとなる撮影にシフト。
演技指導、さらに撮影・録音などの技術指導を受けながら撮影は進む。
これまでのプロジェクトと異なるのは、脚本完成前に双葉町の子どもたちの撮影を行わなければならなかったこと。撮影時間も2日目の16~19時に限定されていたことから、手際よく進めなければならない。
Aチームは登場人物の15年前という設定で、子どもたちが宝物をタイムカプセル缶の中に入れるシーンを撮影。室内で子どもたちに思い思いの工作をしてもらった。
Bチームは駅前の「ふたば、ふたたび☆みらいへのヒカリプロジェクト」のイルミネーションを使って撮影。登場人物が偶然出会った子どもたちにカメラをプレゼントするシーンだが、電飾を撮るためシャッタースピードを考慮した技術力が求められる撮影となった。
そして翌日、本格的な撮影がスタート。まずは完成した脚本にしたがって撮影プランを練っていく。早々に脚本をあげ撮影を開始したのはAチーム。ただ、台詞を現場で組み立てていくため、入念なリハーサルが繰り返し行われる。さすが演技経験のある出演者たちはキャラクターの中にそれぞれの個性を反映、アドリブ力で撮影を進めていく。
ロケ地は産業交流センター、図書館、神社、地下道など日常的な双葉町の風景がうまく取り込まれる。今回、最年少の参加者となった高校1年生の伊藤脩平くんは「歩きながらの撮影はずっしりと重みがあった」と、機材とカメラマンの責任の重さを感じたと振り返る。
Bチームは午後からのスタート。日没が早く、撮影は時間との戦いだが特に焦る様子もなく、丁寧にカットを重ねていく。ファーストシーンは女性3人が旅するハイエースを使っての撮影。俳優としても活動する佳香さんが1週間前から始めたというギターを使い、即興で歌を披露、堂に入っているのが凄い。
翌日は双葉町で働く齊藤泰道さんが参加。演劇活動をしていたといわれるだけあり、出演者たちとの絡みもごく自然。霜も降りた寒い朝での撮影ながら、驚異の集中力で次々と主要シーンを撮り切っていった。
映画の出来を左右する編集作業。撮りだめた素材をどう生かし、
つないでいくか。専門の機器を使いながら、完成に向けての作業を進める。
クランクアップしてホッとする間もなく編集作業へ。これまでのプロジェクトでは時間が許す限り作業を粘っていたが、今回は終了の時間を決めて取り組むことに。時間を無駄にしたくないと、集中して臨む姿勢が頼もしい。また、両チームにプロの編集者がついているのも心強い。
編集は撮影した素材をどう切ってつないでいくかも重要だが、効果音やBGMの挿入、色味の調整、特殊効果、タイトルをどうみせるか、エンドクレジットの入れ方、選曲など細かな作業が必要になってくる。
Aチームはまず台本の流れをホワイトボードに書き出し、映像をチェック。挿入したい風景を追加で撮りに行く実景班と編集班に分かれてそれぞれ動き出した。編集班は技術スタッフのプリンセス・アンポール氏の説明を受けながらデジタル編集ソフトを使って進めていく。
一方、Bチームは大きなモニタに編集ソフトの画面を映し、松本佳樹氏がみんなの意見を聞きながら手際よく編集を進めていく。また、その場でアフレコや効果音を収録できるようマイクを用意し、親戚が集まったときの様子(ガヤ)を再現。BGMにもこだわり、翌朝、村川晴南さんが作曲した曲を収録した。


まずは撮影した膨大な映像を台本に沿って確認。最適なカットを選び、脚本に基づいて物語の流れを再構築していく。Aチームの編集班は会議室でモニタを使い、編集作業を進める(写真左)。Bチームはホテルの一室に集まり、編集しながらアフレコや手元の追加撮影を行った
最終日となる5日目。完成した作品を関係者ほか一般のお客様に披露する、
本プロジェクト最大のイベントを産業交流センターで開催。
過ぎてしまえばあっという間の5日間。緊張がつづいた映画づくり体験だったが、それを締めくくる上映&発表会を11時より開催、その準備が早朝より進められた。会場入り口には手作りの手描き案内板を掲示。これまでのプロジェクトをまとめたパンフレットをはじめ、オリジナルのトレーナー&メモ帳などのノベルティが来場者向けに用意された。
一方、各チームは完成作品の上映テストを実施。音声、明るさなどの調整を行うのだが、今回はなかなかスクリーンに映像が映し出されず、関係者の肝を冷やした。なんとかぎりぎり間に合い、来場者を迎える準備が万全に整った。今年は晴天にも恵まれ、双葉町の人々や撮影に協力した関係者で会場は満席となった。
上映後、リーダーと参加者たちが壇上に上がり、作品への思いと5日間の映画づくり体験の感想をそれぞれ語った。なかには胸がいっぱいになり、涙で言葉を詰まらせる参加者も。完成度も高く、やりきった充実感溢れるエネルギーに満ちていた。
さらに今回は撮影に協力いただいた子どもたちをはじめ、双葉町住民の方々にも感想を伺うことに。「双葉町にとっても参加者のみなさんにとっても特別な体験」「素敵な作品に感動した」との温かい声に励まされる。と同時に、未来のまちづくりを考えるきっかけにつながった手ごたえを感じる上映発表会となった。





