学生&若者たちの冬の映画づくり体験

映画芸術を活用した魅力あるまちづくり計画を中長期的に見据えた「福島浜通りシネマプロジェクト」。
そのプレイベントとして2022年の夏に経済産業省と映画24区の共同事業として実施された第1弾に続き、
2024年1月、経済産業省のサポートの下、映画24区主催により、およそ1年半ぶりに第2弾が企画された。
今回は、日本全国から集まった18歳から25歳までの若者たちが、映画監督やプロのスタッフ、
俳優と共に双葉町で映画づくり体験に挑戦。10人の若者たちが奮闘する姿をリポートする。

DAY1 オリエンテーション〜チーム分け

無謀な試み!? 3泊4日の映画制作スタート

オリエンテーションは、糸やタオル製品で双葉町の復興・発展を目指すべく、2023年4月に新設された浅野撚糸株式会社の工場「フタバスーパーゼロミル」2階の会議室で行われた。参加資格が中学1年生〜高校3年生までに限定されていた前回から年齢層が若干上がり、今回の参加メンバーは、「震災や復興のことを考える良い機会になれば」と語る福島県会津若松市出身の23歳の女性や、2022年の第1弾に続いて2度目の参加となった新潟県在住の高校3年生など、全国各地から集まった18歳から25歳までの、俳優を志す男女10人。「前回のプロジェクトにサポートスタッフとして参加したことで、さらに映画作りへの関心が高まり、今回は体験する側として京都から再び参加した」という人もいれば、「1週間前に欠員募集の連絡を受け、期末レポートの提出期限と重なり参加するか悩んだが、貴重な機会を逃したくないと思い、担当教官にも相談の上なんとか頑張って仕上げてきた」と裏事情を明かす大学生の姿もあった。人の姿がほとんど見られなかった頃の双葉町を知る前回の参加者たちは「町のあちこちで工事が行われており、復興の兆しを肌で感じる」と感想を語っていた。まずは、「映画がどのような行程で作られているのか」を学ぶべく、映画監督の永田琴スーパーバイザー(以下、SV)による「映画づくり講座」を実施。「脚本」「キャスティング」など、参加者から挙がる項目をホワイトボードに書き出しながら、「とにかくお金が集らないことには何も始まらない!」「お金が一番大事!」と力説。企画開発から公開まで、〈宣伝期〉を除くすべてをたった3泊4日で体験しようとするこのプロジェクトが、いかに無謀で、しかし壮大な試みであるかが明らかになった。

DAY2 ロケハン〜脚本づくり

1日目:各チーム、正反対のプロセスでロケハンをスタート

全体オリエンテーション後は、A・B2班に分かれて別行動を開始。「映画づくりにおける一番の原動力は、“好き”とか“楽しい”という気持ち。真剣に映画と向き合って、“好き”や“楽しい”を炸裂させてくれたら」との思いから、「安全・安心第一」「少数派を否定しない」「常識を疑う」という方針のもと、参加者たちが自主的に意見を出し合うのを見守る姿勢を貫く市井昌秀リーダー率いるAチームと、「全国から双葉という土地に集まり映画づくりを体験すること自体に大きな意義がある。“震災”や“復興”というテーマに縛られることなく、自由な発想で作ろう」と呼びかけた上で、「青空が撮りたいならチャンスは明日のみ」「朝焼けが撮りたいなら明朝6時」と、4日間で完成させるために必要な情報や選択肢をその都度提示しつつ、できるだけ効率よく進めていくスタイルを取る吉田康弘リーダー率いるBチーム。「下の名前やニックネームで互いを呼び合うことで、立場や年齢の壁を取っ払い、チーム一丸となって作品を完成させる」という点では同じだが、ロケハンから脚本づくりを経て撮影、編集に至るまで、各チームが辿ったプロセスは“正反対”とも言えるほど大きな違いがあった。“五感”を働かせながら、海や神社、廃校となった小・中学校、駅周辺を一通りロケハンし、各自持ち寄った小道具や衣裳を部屋に広げ、アイデアを付箋に書き出し、連想ゲームのようにイメージを膨らませながら脚本の土台づくりを進めていったBチーム。それに対し、Aチームは、演劇のワークショップさながら、参加者がロケ候補地でスタッフを相手に即興で演出。チャンバラをする横で、男二人が流木を引っ張り合い、コンテンポラリーダンスを踊る……といったシュールな動画を撮り、それを基に大喜利をするなど「脳トレ」を繰り返していく。機材講習会では、カメラや録音機材の基本的な操作方法や「カチンコ」の打ち方を教わった。

2日目:ハプニングも脚本に取り込む!? いよいよ撮影開始

役割は固定せず、出演していないメンバーが監督やカメラ、マイクをシーンごとに持ち回りで担当することになったBチームは、ある程度まで固まったプロットをベースに「自分が演じる役がオイシくなるように」と各々膨らませてきた案を持ち寄り、いよいよ脚本づくりへ。吉田リーダーからの「映画は“掴み”が重要」「余白を作って観客に想像させる」「色味の違いで時制の変化を表現する」といったアドバイスのもと、設定やセリフをブラッシュアップさせつつ、シーンごとに分担を細かく決めながら撮影プランを組み立てていく。一方、Aチームは、「映画とは・・」といった哲学的な問いと向き合い濃密な「脳トレ」を継続中。「スーツケースひとつにも人間性が出る。キャラクターを特徴づける小道具として使える」といった意見を出しながらも、参加者5人がいかにこの混沌とした状況を、自分たちの力だけで打ち破れるか・・。その時が来るのをひたすら辛抱強く待つ市井リーダー。何かひとつ決まれば一気に動き出しそうな気配もあるなか、「Aチームの部屋に突然Bチームのスタッフが間違えて入ってきた」という現実に起きたハプニングが突破口となり、そこから「出張でやって来た男がホテルの部屋を間違える」というアイデアに繋がることもあった。

脚本が上がったら、現場進行の向田優氏をはじめとする本部スタッフを中心に撮影プランが練られ、撮影や録音のテクニカルスタッフを配置。タイムスケジュールを組んでいく。本部スタッフが手分けして車止めを行うなか、「叫びながら全力疾走する女子高生の横顔」を車両で並走して撮影するという、映画づくり初心者には難易度高めのシーンからクランクインすることになったBチーム。吉田リーダーが撮影における専門用語を説明しながら撮影手法をいくつか提案。撮影指導の鈴木周一郎氏のアドバイスのもと、メンバーがベストのショットを決めるなか、「最初からパワー全開で演じる必要がある人のために、まわりも全力で応援することが大切」との吉田リーダーの教えに従い、監督を務めた小林星冴さんが、全力疾走する女子校生役の細谷桃子さんとウォーミングアップをする姿が印象的だった。車と人のスピードを合わせるのに苦戦して何度かテイクを重ねた後、ロングショットを撮るべく、産業交流センター屋上からトランシーバーでディレクション。続く土手上の撮影では、強風が吹きすさぶ中、全員納得がいくまで粘り、駅前に移動してのナイター撮影では、部活帰りに友だちと肉まんを買い食いする高校生を演じた板井草平さんによる「テストなのに思わず食べてしまう」というハプニングが笑いを誘った。一方、Aチームは、夕方駐車場で全員そろってウォーミングアップを行い、午後8時からホテル内で遂に撮影が開始された。

双葉町の復興が見える地図

※本地図は「双葉町の復興が見える地図」を引用しました。 地図発行:双葉町

DAY3 撮影

3日目:早朝撮影に深夜編集 映画制作のクライマックス

朝焼けの海を撮影するため、Bチームのメンバーとスタッフは午前6時前に出発。暗闇のなか全員で円陣を組み「安全第一。(暗くて寒くて)不安だと思うけど、何かあればすぐに周りのスタッフに言うように。映画は一人では作れない。最初からで全力でやろう。頑張れば2時間後には終わる。気合入れていきましょう!」と吉田リーダー。東の空が徐々に白み始めるなか、「卒業以来2年ぶりに集まった高校の同級生4人が、卒業目前に他界した“鈴木しゅん”への想いを海に向かって叫ぶ」クライマックスシーンを撮影。人員配置上、鈴木役の板井さん自ら手持ちカメラで撮影を行うという、なんともエモいシーンになった。

Aチームは初の外ロケ。これまで屋内撮影が続いた参加メンバーの表情にも笑顔が覗く。全員が持ち回りですべてのポジションを担ったBチームに対し、Aチームは「ヘヴン監督」こと、片嶺穂乃佳さんが全編一人で監督を担当。「パリ五輪を目指すランナー」役も兼任した片嶺さんは、メイキング撮影を担う永田琴SVから「必勝ハチマキ」に緑のマジックで「パリ」と書き入れてもらい、気合十分!魚井健太郎さんは、出張先のホテルでシャワーを浴びようと服を脱ぎ風呂場に足を踏み入れた途端、浴槽に隠れていた泥棒とその元恋人と鉢合わせ。バスタオルを腰に巻き全速力で泥棒を追いかける設定の男役を、文字通り体を張って演じた。このシュールな逃亡&追跡シーンは、列車の通過時刻に合わせて撮影するため、チャンスは上りと下りの2回のみ。1回目はタイミングがうまくいかなかったものの、永田SVが線路の付近から列車接近の合図を出す係を務め、2回目で無事成功。ヘヴン監督が「完璧!」とキャストに呼び掛け、市井リーダーからも「よかったよ!」と称賛が飛び出した。

その後、満潮が迫る海辺に移動して、波打ち際に出演者が横一列に並び、手をつないで海に向かって深々と一礼するシーンの撮影に。最後はサポートスタッフも機材を片手に全員カメラの前にフレームイン。「祝祭」というタイトルに相応しい大団円を迎える展開に・・。役者のみならずマジシャンの顔も持つ魚井さんが、裸にバスタオル姿から打って変わって緑色の衣裳とサングラスをまとい、カメラの前でカードマジックを披露するシーンも撮り終えた。参加者たちが慣れない撮影に奮闘する裏側では、本部スタッフたちが常に連携を取り合い、昼食に加えてお汁粉やホットチョコレートなどのおやつを絶妙なタイミングで差し入れ。編集室に用意されたお菓子も、“テッパン”とされるアルフォートに加え、小分けになった塩系スナックなどバリエーション豊かな品揃え。ちなみに、ドライバーを担当した本間淳志氏と本部サポートの有田あん氏は現役の俳優で、同じく本部サポートの高藤まりこ氏にもかつて役者として活動していた経歴がある。俳優経験のあるスタッフがサポートすることで、参加者たちの不安も解消されたに違いない。もともと芸人出身で、演技経験もある市井昌秀監督率いるAチームと、助監督からキャリアをスタートさせた吉田康弘監督率いるBチームという、各チームのリーダーを務める監督の出自の違いが、それぞれの映画づくりのプロセスに大いに影響しているように見受けられた。

夕食後、Bチームの編集作業がスタート。その日撮り終えた素材を全員で見てみることに。「なんだか昔の台湾映画みたい」とは吉田リーダーの弁。自らが演じる姿を目にした参加者は「瞬きが多いな」「リュックを背負い忘れた!」など次々と感想が上がるなか、ワイヤレスマイクがうまく作動しておらずアフレコが必要なシーンも。「プロの現場でも1日で撮れて10分程度。30秒のCMを撮るのに2〜3日かかることもある」と聞いた参加者たちは、「つながりをイメージしつつ、編集しやすいように考えて撮ることが大切」であると学んだ。一方、Aチームは室内や廊下で撮影を続行。Bチームは深夜まで編集作業が行われた。

DAY3 編集〜ポスターづくり

4日目:追加撮影にアフレコ エンドロール制作と怒濤の編集

4日目。朝から、一歩外に出るや一瞬で傘が壊れてしまうほどの暴風雨に見舞われた双葉町。永田琴SVによる編集講習会からスタートしたAチームは、そのまま編集を続ける班と、追加撮影をする班との二手に分かれて、急ピッチで作業を進めていった。Bチームは、吉田リーダーと編集サポートの董敬氏が繋いだ映像に、録音技師の石寺健一氏が音を合わせる作業が続く中、アフレコや効果音の収録を行い、全員会議によりタイトルも決定。その後も、向田氏と共にエンドロールに使用するインスタント写真をセレクトしながら、板野サブリーダーから提案された使用楽曲を確認するなど、上映会に間に合わせるべく同時進行で仕上げ作業を行った。俳優志望の参加メンバーたちが、短期集中で映画づくりのすべての行程を駆け足で体験するなかで、確実に視野が広がり、成長していくのが彼らの真剣な眼差しから見て取れた。

DAY4 上映発表会

双葉町の復興・発展が実感できる2作品が完成!

最終日。怒濤の4日間を締めくくる上映&発表会が、双葉町産業交流センター大会議室にて開催。あいにくの悪天候にもかかわらず、双葉町の住民や撮影に協力した関係者らで会場が満員になるなか、完成したばかりの素材が届けられ、予定より遅れて上映会がスタート。各チームともに開始ギリギリまで追加撮影やアフレコ、編集作業を分担しながら行っていたため、チームリーダーでさえ「どのように仕上がったか知らなかった」という状況のなか、会場にいる誰もが固唾を呑んで鑑賞。まったく異なるプロセスを経て生み出された、まったく異なるテイストの作品にもかかわらず、奇しくも「出演者全員が浜辺に揃う」という着地点を持つ2作品に、盛大な拍手が贈られた。上映後、舞台上に登壇した参加者それぞれが、充実した面持ちで作品への思いを語った。終了後には参加者・スタッフが車座になり、4日間を振り返っての1分間ずつスピーチ。それぞれの内なる思いを知り、「双葉町」の美しい風景や出会った人々にインスパイアされて生まれた作品こそが、復興・発展への確かな礎になるであろうことを実感できた瞬間だった。堤防の内側に植えられた小さな海岸防災林が、映画づくりをスタートさせた参加者たちとどこか重なるようでもあり、いつか大きく成長した姿をまた見たいと思わずにはいられなかった。