中高生 夏の映画づくり体験

映画芸術を活用した魅力あるまちづくり計画を中長期的に見据えた「福島浜通りシネマプロジェクト」。
そのプレイベントとして、2022年夏、中高生たちが双葉町で映画づくり体験に挑戦。
福島県内および全国から集まった21人の中高生たちが奮闘する姿をリポートする。

DAY1 オリエンテーション〜チーム分け

21人21様の子どもたちコミュニケーションでチーム力をアップ

福島県および日本全国から集まった中高生は21人。募集時には子どもたち以上に、大学生をはじめ、大人たちの問い合わせが多かったという。中には多めに滞在費を払うので参加させてほしいと、熱心にアプローチする人も少なくなかった。
だが、参加者はあくまでも中学1年生から高校3年生までの子どもたち。双葉町で生まれ育ち、5歳のときに避難し移住した子もいれば、住民ゼロの町を見てみたかったと、大阪から参加した子も。
また、子役として既に俳優活動を行っている子や、女優を目指しワークショップでレッスンを受けている子らがいる一方、親から面白そうなプロジェクトだと薦められ、仕方なく参加したと正直に話す子もいた。 オリエンテーションは復興の中枢を担う、産業交流センター1階の大会議室で開催。全員が初対面ということもあり、開講当初は誰もが緊張の面持ちだった。早速、区分けされたチームごとに子どもたちが自己紹介していく。だが、思春期特有の難しさかなかなか殻が打ち破れず、言葉は少なめ。
ただ、映画づくりは何よりもコミュニケーションが大事。まずは打ち解けることから始めようと、前の人の自己紹介を覚えて次の人に伝える他己紹介や、紙でタワーを作るゲーム、発声練習など、各チームそれぞれのオリエンテーションを行っていった。

映画づくり講座
風景

全体の合同オリエンテーションでは、映画がどのようにして作られるのか、その基礎を知っておこうと、永田琴監督による「映画づくり講座」を実施した。まず「映画づくりには正解はない」と、永田監督は「発言することを恐れるな」と提言。そして(企画)から(劇場公開・配信)までの間にはどんな作業があるのか、子どもたちに訊いた。すると(脚本)(キャスティング)など次々意見が飛び出し、ホワイトボードはすぐ埋まる勢い。さすが映画に関心の高い子どもたちが多いからだろう。その後、子どもたちによる映画づくりが本格スタートした。

機材講習会
風景

チームごとのオリエンテーションがひと段落したところで、技術スタッフによる機材の講習会が行われた。講師は数多くの作品を手掛ける武村敏弘氏(撮影技師)、松野泉氏(録音・整音技師)。さらにテクニカル・スタッフがサポートし、各グループの説明にあたった。カメラ、マイク、結線など機材の説明から、芝居と呼吸を合わせた撮影のコツ、マイクのポジショニングなど、まさにプロ仕様。フレームの切り方、カットとシーンの違い、背景を生かした画、海や工事現場の音の録り方など具体的なワークショップに子どもたちも興味津々、真剣に臨んだ。

DAY2 ロケハン〜脚本づくり

双葉町を舞台に子どもたちのアイデアが埋め尽くされる

どんな作品を作りたいか。Aチームは「今の双葉町で3日間何をする?」「どんなことが気になる?」と投げかけた。一方、Bチームは「映画を教えようとしない」「よくある方法は提示するが、それを疑ってかかる」「多数決はいいが、少数派を排除しない」方針を発表。子どもたちが自主的に意見を出し合うまで、待ちの姿勢を貫いた。Cチームは一人の子が小道具として弾けないギターを持参してきたところから話が発展。そこから発想する物語を話し合った。
ある程度、方向性が決まったら次はロケハンへ。駅周辺、神社、廃校となった小学校、海など、舞台となる双葉町をチームごとに訪れ、さらに想像力を膨らませていく。小学校の鳥小屋に書かれていた文字に子どもたちが反応するなど、ロケハンで発見したものが、脚本づくりに大いに役立った。
ロケハンから戻ってきたら、撮ってきた写真をパソコンに映し出しアイデアを捻出。ホワイトボードは子どもたちの言葉でいっぱいに埋め尽くされていった。しかし、一本の脚本にするには相当の時間が必要だったようだ。
最終的には、Aチームは全員が出演し、カメラやマイクも1回ずつ担当。Bチームは一人1シーンを監督。Cチームはドラマ仕立ての脚本にし、俳優部と技術部の2班に分かれて撮ることにした。

双葉町の復興が見える地図

※本地図は「双葉町の復興が見える地図」を基に再編集し作成 地図発行:双葉町

1:双葉駅/旧駅舎憩いのスペース
2:壁画アート
3:相馬妙見初發神社
4:東日本大震災・原子力災害伝承館
DAY3 撮影

双葉町を舞台に子どもたちのアイデアが埋め尽くされる

脚本が固まったら、それをプリントアウトし、スタッフと共有。撮影プランを練っていく。その仕切りを行うのが本部スタッフの役割だ。現場進行の向田優氏を中心に、撮影を行うチームに撮影、録音のテクニカル・スタッフを配置。あわせてメイキング&オフィシャル撮影用スタッフが移動、車両のタイム・スケジュールを組んでいく。
まず、最初に会議室を飛び出したのはAチームだった。台本を確認すると、駅、駅前広場、集合住宅前、神山神社、産業交流センター、海と、ロケ地が多い。聞けば青春映画よろしく、双葉駅に降り立った子どもたちが偶然出会い、それぞれの思いの丈を叫ぶロードムービーを目指すという。
電車が入ってくるタイミングで撮影したいと、急きょ大移動。慌ただしく機材のセッティングが行われ、動きを確認した後すぐ本番。初シーンから子どもたちにとってはハードルの高い撮影となった。 ラストは子どもたちが海に向かって叫ぶのだが、「双葉が大好きだ―!」と叫んだ双葉町出身の橋本岳くんは感極まって号泣、スタッフの涙を誘った。その間、カメラは手持ちで順にフレームインする子どもたちを長回しで追う。容赦ない自主的なダメ出しにも、子どもたちは果敢に応え、何度も演じる姿がまた感動を呼んだ。
Bチームは7人がそれぞれ撮りたいシーンに挑むオムニバス形式ながら、一つの物語に仕立てた作品を目指す。それだけに、脚本には時間をかけ、撮影も一切の妥協なし。サポートを受け即席で作ったドリーや車両を使っての移動撮影、ブルーバックでぬいぐるみを撮影しCG加工するなど、初めてとは思えない高度な演出にも挑戦した。
映画好き、音楽好きの参加者も多く、シーンの説明に名作のタイトルがあがったり、クラリネットやダンスを取り入れたり、エンタテインメント性も十分。現場でも新たなアイデアが次々生まれ、先の見えない展開がまた現場を高揚させた。撮影は上映会ぎりぎりまでずれ込んだが、その達成感も得難い経験の一つになったことだろう。
Cチームは演技経験のある下松谷嘉音くん、川原菜摘さんがいたことから、ドラマ性の高い物語を発案。大薮桃子さんが一晩考え練り上げた脚本をたたき台に、恋愛経験の少ない中高生らしく、家族愛を描いた作品を目指す。
吉田康弘監督は撮影における専門用語を説明しながら撮影手法をいくつか提案。その中から子どもたちがベストのショットを決めていく。当初は遠慮がちだった子どもたちも、次第に思っていることをどんどん言い始めるように。物語のキーとなる手紙も、全員が文字を書いてみる自発的オーディションを実施。予定調和にならない演技の打ち合わせも堂に入っていった。それはまさに、プロと変わらない映画の現場だった。

風景
DAY3 編集〜ポスターづくり

完成間近!仕上げは時間との戦い

上映会の時間が決まっているため、編集作業は時間との戦い。しかも、編集機材1台を回しながら作業するため、時間もかかる。中には撮影が終わってホッとし、スイッチがオフになってしまう子も。
その一方で、編集のつなぎ方次第で映像、物語のテンポが上がり、全く違った印象になることに関心を寄せる子も多かった。やはりYouTubeやTikTokなど、動画編集が身近にある世代だからなのだろう。編集アプリを実際に使っている子どもたちも多く、編集のコツとその効果を教えるだけで、どんどん自分のものにしていく。
明らかに今の中高生世代にとって編集はハードルの低い作業のようだ。作品が出来上がる過程を楽しめると、モチベーションも高い。 編集作業の傍ら、ポスターづくりにも着手。映画は観客に観てもらって、初めて完成となる。ポスターなどの宣材で作品の印象も変わるだけに、ポスターは映画づくりにおいて最も重要な過程の一つ。ある意味、最後の仕上げと言っていいだろう。
タイトルを決め、どんな構図にするのかを話し合い、子どもたちで写真を用意したり、デコレーションしたり、準備に奔走。その共同作業は文化祭準備を彷彿とさせた。作品、ポスターが完成したのは、ともに上映会ぎりぎりの15分前だった。

作品、ポスター
映画上映イベント

「映画と地域」映画を活用したまちづくりの可能性を探る

「福島シネマプロジェクト」では中高生の〈映画づくり体験〉ほか、「映画×地域」「映画×人材育成」「映画×滞在制作」など、映画をキーワードにさまざまなテーマを設定。福島浜通り地域におけるまちづくりへの活用や、今後の可能性を検証するディスカッションの場を設けた。
第1部は「映画と地域」と題し、2008年より地方自治体が主体となって進める、映画24区による地方映画プロジェクト「ぼくらのレシピ図鑑」シリーズを地域活性の成功事例として紹介。兵庫県加古川市で製作された第1弾「36.8℃ サンジュウロクドハチブ」を上映した後、安田真奈監督、三谷一夫プロデューサー、兵庫県会議員の松本裕一氏をゲストに招き、トークディスカッションが行われた。
同シリーズのコンセプトは「1本の映画をつくり上げた時間(過程)が、地域にとってかけがえのない財産になる」。企画、脚本づくりから地元の人々にかかわってもらい、映画づくりのセミナーやワークショップ、オーディションを開催。シナリオ作りやロケハン、美術の準備、地元料理の開発、キャストオーディションを行うなど、まちづくりを視野に入れた新たな地方映画の形を提案する。
安田監督は「映画は終わらない祭り」と発言。そのお祭り効果は市民が参加した“自分たちの映画”として残ると語った。現在、安田監督は山梨県富士吉田市と第3弾「メンドウな人々」を制作中。トークセッションには双葉町の住民も参加、地域と映画を結び付けまちづくりに生かす、自治体についての意見交換も行われた。

ぼくらのレシピ図鑑

トークセッション

福島浜通りでの映画づくりを考える

中高生の〈映画づくり体験〉で完成した作品の上映会が行われる当日、産業交流センターでは「福島浜通りシネマプロジェクト」の一環としてトークセッションが開催。前日の第1部「ぼくらのレシピ図鑑」シリーズ好事例にみる映画を活用したまちづくり~「映画と地域」の上映会&トークセッションに続き、第2部は犬童一心監督、本広克行監督を招き、「福島と映画の魅力」「双葉町・浜通りの将来を映画で考える」と、2つのテーマでディスカッションが行われた。
前半のトークショーには、福島県を舞台にした映画「フラガール」(06)に出演した南海キャンディーズのしずちゃんこと山崎静代さんも登壇。相方の山ちゃんこと山里亮太さんが司会を務めた。
犬童監督は「名付けようのない踊り」(21)「ハウ」(22)の撮影で双葉町、浪江町を訪れていたこともあり、福島には特別な想いがあるという。また、故郷・香川県を舞台にした「UDON」(06)や、さぬき映画祭のディレクターを務めるなど、映画でまちおこしに努めてきた本広監督はその経験を語るとともに、「撮影地に向いている」双葉町に惹かれた理由を挙げた。
最近、マラソンを始めたというしずちゃんは、双葉町をスポーツ開催地として推したいと提案。司会業には定評のある山ちゃんとの丁々発止の掛け合いで、会場の笑いを誘った。 後半はさらに一歩踏み込み、具体的な映画によるまちづくりについての意見交換が行われた。映画づくりは人材育成の場になること、撮影クルーが滞在することによって経済効果が生まれることなどから映画ロケ地の誘致、さらに撮影スタジオ設立についても話が及んだ。
東京国際映画祭でも先の犬童監督、本広監督はじめ、映画関係者を招いたトークセッションが開催。映画など芸術文化を通して、福島県浜通り地域に新たな魅力を創出する「福島シネマプロジェクト」の取り組みは、フィルムコミッションの立ち上げが検討されるなど、さらに実現に向け、確実に動き始めている。

風景

DAY4 上映発表会

激動の4日間を終えた達成感。双葉町に笑顔があふれる

最終日。緊張が途切れることのなかった4日間を締めくくる上映発表会が14時からスタート。そのぎりぎりまで撮影、編集、ポスターづくりに追われた子どもたちだったが、その表情は明るく、疲れを全く感じさせない。むしろ最後の最後まで、満足のいく作品に仕上げようと、大人たちスタッフを盛り立てる。その真剣なまなざしは、初めての顔合わせとなった3日前のオリエンテーションとは全く別人のものだった。
会場はその成果を見ようと、関係者、保護者ほか、一般客、マスコミでいっぱいに。同じく双葉町で撮影された東邦学園映画専門学校、東京藝術大学大学院の生徒たちによる作品の上映会が行われたのも、子どもたちにとって刺激になったことだろう。
そして、いよいよ上映発表会がスタート。各チームのリーダーでさえ、この上映会で初めて完成品を観るという。会場にいる誰もが固唾をのんで鑑賞。映し出されたドラマに盛大な拍手が贈られた。 上映後は舞台上に登壇し、作品への想いを語った。その姿にはやりきった充実感が見える。発表会終了後も興奮冷めやらず。記念撮影をしたり、LINE交換をしたり、時間ギリギリまで激動の4日間を共に過ごした仲間との別れを惜しんだ。彼らにとっても記憶に残る体験になったことだろう。